ゼネコンでBIM推進や情報システム、設計部門を担当している方の中には、「他社、とくに大手ゼネコンが実際にどのBIMソフトを使っているのか分からず、自社の選択が正しいのか不安」「意匠・構造・設備を横断する大規模プロジェクトで、協力会社とのデータ連携が本当に成立するのか」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
一般的なBIMソフトの比較記事は、設計事務所や個人設計者の視点で書かれていることが多く、ゼネコン特有の悩みである施工BIMへの展開、協力会社・鉄骨ファブとのデータ連携、大規模プロジェクトのコスト構造まで踏み込んだ内容は多くありません。
この記事では、ゼネコンの立場でBIMソフトを選ぶときに重視すべき基準を解説します。
BIMソフトの比較記事は数多くありますが、ゼネコンの立場で読むと「自社の状況にそのまま当てはまらない」と感じる内容も少なくありません。まずは、ゼネコンがBIMソフトを選定・見直しする際に直面しやすい悩みを整理します。
自社でBIM導入を進める中で、「大手ゼネコンは何を基準にBIMソフトを選んでいるのか」「自社の規模でこのソフトを選んで本当に問題ないのか」という不安を持つ担当者は少なくありません。ところが、Web上の比較記事の多くは出典が不明なシェア数値や、個別企業の事例を並べただけのものが多く、ゼネコン全体の傾向を裏付ける一次データに基づいた記事はほとんど見当たりません。
すでに社内で一部のソフトを使っている場合でも、「今のソフトのまま拡大していいのか」「他部署・他拠点にも同じソフトを展開すべきか」を判断する材料が乏しく、なんとなく前例踏襲で継続してしまっているケースも見受けられます。
ゼネコンが扱う大規模プロジェクトでは、自社の意匠・構造・設備の各部門に加えて、設計事務所、サブコン、鉄骨ファブなど社外の協力会社ともBIMデータをやり取りする場面が多くあります。ソフト単体の機能だけでなく、IFCなどのデータ形式を介した互換性が実務で問題なく成立するかは、製品カタログだけでは判断しづらいポイントです。
とくに、元請けであるゼネコンが指定したBIMソフトと、協力会社が普段使っているソフトが異なる場合、モデルの往復のたびに形状や属性情報が欠落しないか、図面表現が崩れないかを事前に確認しておく必要があります。
ゼネコンの場合、1ライセンスだけでなく部門・拠点単位で複数ライセンスを導入するケースが多く、初期費用だけで数百万円、複数年・複数部門で見れば数千万円規模になることも珍しくありません。投資額が大きいからこそ、「導入してから自社に合わなかった」という事態は避けたいところです。
加えて、ライセンス費用以外にも、既存の設計標準・テンプレートの作り直し、過去案件データの移行、社内研修など、目に見えにくいコストが後から発生することも少なくありません。
ソフトを導入しても、実際に使いこなせる人材が育っていなければ宝の持ち腐れになってしまいます。とくに複数の部署・現場で横断的にBIMを運用しようとする場合、標準化されたワークフローと教育体制がないまま導入を進めると、現場ごとに運用がバラバラになり、かえって非効率になるおそれがあります。
次の章では、これらの悩みを踏まえたうえで、ゼネコンがBIMソフトを選ぶときに重視すべき基準を整理していきます。
ここまでの悩みを踏まえ、ゼネコンの立場でBIMソフトを選定・比較する際に押さえておきたい5つの基準を整理します。設計事務所向けの一般的な比較記事にはあまり出てこない、ゼネコン特有の視点を中心にまとめました。
ゼネコンのプロジェクトには、社内の意匠・構造・設備部門だけでなく、設計事務所、サブコン、設備会社など複数の協力会社が関わります。BIMソフトを選ぶ際は、自社が使う製品同士の互換性だけでなく、協力会社が使っている製品とのデータ連携が、どの形式で・どこまで成立するかを確認することが重要です。
「IFC対応」と表記されていても、対応するIFCのバージョン、入力・出力のどちらに対応しているか、属性情報がどこまで保持されるかは製品によって異なります。カタログ上の対応表示だけで判断せず、実際の案件データに近いサンプルで検証することをおすすめします。
ゼネコンが手がける大規模プロジェクトでは、複数分野・複数拠点の担当者が同時に同じプロジェクトのデータを扱う場面が多くあります。ライセンス数を増やしたときの安定性、クラウド環境での共同作業機能、大容量モデルを扱ったときの処理速度なども、実務では重要な判断材料になります。
とくに、意匠・構造・設備のモデルを分野ごとに作成し、重ね合わせて干渉確認を行う運用を取る場合は、各分野のモデルを最新の状態に保つ更新頻度や、変更履歴の管理方法もあわせて決めておく必要があります。日建連の調査でも、こうした「重ね合わせモデル」の運用が回答企業の44%を占め、複数分野のモデル運用方式の中で最も多くなっています(詳しくは後述の「(参考)ゼネコンでのBIMソフト活用実態」で紹介します)。
設計事務所であれば意匠・構造・設備の設計モデルが最終成果物になりますが、ゼネコンの場合は施工図作成、数量拾い・積算、現場での干渉確認など、施工段階までBIMを展開できるかが選定のポイントになります。設計段階のモデルの精度や属性情報の持たせ方によって、施工段階でどこまでBIMを活かせるかが大きく変わってくるため、設計部門だけでなく施工部門を交えて要件を整理することをおすすめします。BIMを使った積算業務の効率化については「BIM活用で積算業務の効率化・標準化!導入方法や注意点などを詳しく解説」でも詳しく解説しています。
大規模建築の多くは鉄骨造・S造・SRC造が中心となるため、鉄骨ファブ(鉄骨製作会社)とのデータ連携も欠かせない検討項目です。設計側のBIMソフトと、鉄骨製作側の専用CAD・詳細設計ソフトは役割が異なるため、どの工程まで自社のBIMソフトで担い、どこから鉄骨ファブ側の専用ソフトに引き継ぐかをあらかじめ整理しておく必要があります。柱・梁の構造設計モデルと、継手・仕口・ボルト・孔まで含めた製作モデルとでは、必要な詳細度がまったく異なる点にも注意が必要です。鉄骨対応BIMソフトの詳しい考え方は「鉄骨対応BIMソフトの基礎知識と導入について」をご覧ください。
ゼネコンは1〜2ライセンスの導入で完結する設計事務所とは異なり、部門・拠点単位で複数ライセンスを導入するケースが一般的です。単純な月額・年額の比較だけでなく、ライセンス数×契約年数の総額で比較する視点が欠かせません。買い切り型とサブスクリプション型では、短期の総額と長期の総額の有利不利が逆転することもあるため、自社の利用期間・利用人数を先に見積もっておくことが重要です。費用感の詳細は後述の章、または「BIMソフトの価格や相場は?導入費用を試算」で解説しています。
同じ「ゼネコン」でも、大手・準大手・中堅では、扱うプロジェクトの規模や協力会社との関係性が異なります。ここまでの内容を踏まえ、規模別に検討の重点を整理します。
大手ゼネコンは、複数拠点・複数部門で数十〜数百ライセンス規模の導入になることも珍しくありません。個別の機能面よりも、全社標準としてどのソフトを軸にワークフローを統一するか、協力会社が多岐にわたる中でどこまでデータ形式を指定できるかが論点になりやすい傾向があります。使用率が高い製品ほど大規模運用の実績が豊富な傾向があり(詳しくは後述の「(参考)ゼネコンでのBIMソフト活用実態」で紹介します)、こうした点でも候補に入りやすいといえます。
準大手ゼネコンは、大手ほどの規模ではないものの、大規模プロジェクトを元請けとして手がける機会もあり、大手ゼネコンや設計事務所とのデータ連携力が求められます。全社統一よりも、まずは主要な設計部門・特定の事業部門から導入し、実績を積みながら展開範囲を広げていく進め方が現実的な場合があります。
中堅ゼネコンの場合、住宅系・低層建築を含む幅広い案件を手がけていることも多く、汎用的な統合型ソフトだけでなく、ARCHITREND ZEROのような住宅設計に特化したソフトや、i-ARMのような企画・基本設計に強いソフトが選択肢に入ることもあります。自社の主要な案件タイプに合わせて、無理に大手と同じ製品をそろえるのではなく、自社の業務内容に即した製品を選ぶことが重要です。
ゼネコンにとってのBIM活用は、意匠・構造・設備の設計モデルを作ること自体がゴールではありません。設計段階で作成したモデルを、施工段階、さらには竣工後の維持管理段階までどう活かすかが、投資対効果を左右する重要なポイントです。
BIMモデルに部材の数量・材質・仕上げなどの属性情報を持たせておくことで、積算業務の一部を自動化・効率化できる可能性があります。ただし、モデルの作り方や情報の持たせ方が積算業務の要件に合っていなければ、結局は手作業での拾い直しが発生してしまいます。BIMを使った積算業務の効率化・標準化については「BIM活用で積算業務の効率化・標準化!導入方法や注意点などを詳しく解説」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
設計段階のモデルをそのまま施工図として使えるわけではなく、多くの場合、施工者側でより精度の高い「施工図基図」を作成し直す工程が必要です。設計図よりも施工図に近い精度でモデルを作り込むことで、施工段階での手戻りを削減できる可能性があります。
建物が竣工した後も、BIMモデルに蓄積された属性情報を維持管理(ファシリティマネジメント)に活用する動きが広がっています。BIMソフトの中には、施設管理(FM)システムとの連携機能を備えた製品も登場しています。設計・施工段階から、維持管理段階でどの情報を引き継ぐかを見据えてモデルを作成しておくと、竣工後のデータ活用がスムーズになります。
ここまで紹介した選定基準を検討する際の参考情報として、日本建設業連合会(日建連)が2023年度に実施した「BIM活用の実情把握に関するアンケート」の結果を紹介します。調査は日建連建築本部会員61社を対象に、2023年11月20日〜2024年2月20日の期間で実施され、45社から回答(回答率74%)を得ています。回答企業はいずれもBIMを導入済みの企業です。
回答企業のうち、BIM導入から6年以上が経過している企業は約76%にのぼり、ゼネコンにおけるBIM活用はすでに一定の定着段階にあることがうかがえます。一方で、社内で標準的なBIMワークフローを設定している企業は53%にとどまっており、導入年数の長さと標準化の進み具合は必ずしも比例していません。複数分野のBIMデータの運用については、分野ごとに作成したモデルを重ね合わせて確認する「重ね合わせモデル」が44%で最も多く、分野を横断して1つのモデルに統合する「統合モデル」、全工程を1つのモデルで完結させる「ワンモデル」の運用も一定数見られます。
最後に、ここまでの内容を踏まえ、ゼネコンがBIMソフトを比較・導入する際の進め方を整理します。
とくに5と6を後回しにしてしまうと、前述の「標準BIMワークフローの設定率が53%にとどまる」という調査結果のとおり、導入はしたものの組織的な活用まで至らないという状態に陥りやすくなります。ソフト選定と同じくらい、導入後の運用設計に時間をかけることをおすすめします。
ゼネコンの場合、BIMソフトは1〜2ライセンスではなく、部門・拠点単位で複数ライセンスを導入するケースが一般的です。そのため、月額・年額の単価だけでなく、ライセンス数×契約年数の総額で比較する視点が欠かせません。
BIM用途のライセンス費用は、サブスクリプション型(月額・年額)と買い切り型で体系が異なるうえ、製品によって価格帯にも幅があります。複数ライセンス・複数年の契約になると、これだけで数百万円〜数千万円規模になることも珍しくありません。ライセンス数と契約年数を先に見積もったうえで、同じ条件で各社から見積もりを取ることが比較の基本になります。製品ごとの価格や試算方法は「BIMソフトの価格や相場は?導入費用を試算」で詳しく解説しています。
また、ライセンス費用以外にも、推奨動作環境を満たすPC、初期設定・テンプレート整備、操作研修・社内ルールづくり、必要に応じた追加機能やクラウド環境(CDE)の費用も見込んでおく必要があります。買い切り型を選ぶ場合は、本体価格に加えて保守費用(年額)を契約年数分加算して比較するとよいでしょう。
BIMソフトの導入費用は、要件を満たせば補助金の対象になる場合があります。たとえば国土交通省が実施する令和8年度(2026年度)建築GX・DX推進事業のBIM活用型では、BIMソフトの利用費、PC等のリース料、CDE環境費、BIMコーディネーター・BIMマネジャー・BIMモデラーといったBIM人材の人件費、講習費用などが補助対象となり、対象経費の補助率は2分の1です(設計費として最大3,500万円、建設工事費として最大5,500万円が補助限度額の目安)。
このほか、中小企業向けの「デジタル化・AI導入補助金」なども候補になりますが、いずれも申請要件・対象経費・スケジュールが年度ごとに変わるため、詳しくは「BIMソフト導入に使える補助金を徹底調査」で最新の情報をご確認ください。
前述の日建連調査では、BIM導入から6年以上が経過している企業が76%にのぼる一方、標準BIMワークフローを設定している企業は53%にとどまっていました。この差は、「BIMを使い始めること」と「BIMを組織として使いこなすこと」の間には大きなギャップがあることを示しています。
大規模プロジェクトで複数分野・複数拠点をまたいでBIMを運用するには、モデルの品質やルールを管理する専任者(BIMマネジャー、BIMコーディネーターなど)が欠かせません。前述の補助金制度でもBIM人材の人件費が補助対象になっているとおり、国としても人材確保・育成を重要な課題と位置づけています。
専任者を1人だけ置いて属人化させてしまうと、その担当者が異動・退職した際に運用が立ち行かなくなるリスクがあります。可能であれば、部門・拠点ごとに複数名を育成し、標準ルールをドキュメント化しておくことが望まれます。
ソフトの操作方法を教えるだけでなく、モデルの作成ルール、部材の命名規則、データの受け渡し方法といったプロジェクト共通の運用ルールを整備しないと、部署やプロジェクトごとに運用がバラバラになり、せっかく導入したBIMソフトの効果が発揮されません。標準ワークフローの設定率が53%にとどまっている現状を踏まえると、多くのゼネコンにとって、ここが次の課題になっていると考えられます。
すべての業務を自社の人材だけで賄おうとせず、繁忙期や特定分野(設備BIM、鉄骨BIMなど)については、外部のBIM専門会社と連携する方法もあります。自社が担う工程と、外部に委託する工程を明確に切り分けておくことで、内製化の負担を抑えながらBIM活用を進めやすくなります。外注を活用する場合も、成果物の詳細度や納品形式、修正回数などをあらかじめ明文化しておくことで、後工程での手戻りを防ぎやすくなります。
基本的な機能面での判断基準は共通していますが、ゼネコンの場合は、協力会社・サブコンとのデータ連携、施工BIMへの展開、鉄骨ファブとの連携、複数ライセンス導入時のコスト構造など、施工段階まで見据えた判断基準が加わる点が異なります。
「IFC対応」などの表記だけで判断せず、対応するデータ形式のバージョン、入力・出力のどちらに対応しているか、属性情報がどこまで保持されるかを確認することが重要です。可能であれば、実際の案件データに近いサンプルで、協力会社との間でデータの往復を試してから本格導入することをおすすめします。
製品によります。統合型のソフトであれば、設計段階のモデルをそのまま施工図作成や数量拾い、干渉確認まで展開できる場合がありますが、精度や属性情報の持たせ方によっては、施工段階で専用の施工図CADや積算ソフトと組み合わせる運用が前提の製品もあります。導入前に、自社が必要とする施工段階の成果物まで対応できるかを確認しましょう。
設計側のBIMソフトに加えて、鉄骨ファブとのデータ連携をどう成立させるかがポイントになります。詳しい考え方は「鉄骨対応BIMソフトの基礎知識と導入について」で解説していますので、あわせてご確認ください。
製品やライセンス形態(サブスクリプション/買い切り)によって価格帯は大きく異なります。ゼネコンの場合は部門・拠点単位で複数ライセンス・複数年契約になることが多いため、単価だけでなくライセンス数×契約年数の総額で比較することが重要です。具体的な製品ごとの価格は「BIMソフトの価格や相場は?導入費用を試算」をご覧ください。
すべてを内製化しようとせず、繁忙期や専門性の高い分野(設備BIM、鉄骨BIMなど)については外部のBIM専門会社と連携する方法もあります。あわせて、国の補助金制度にはBIM人材の人件費や講習費用を対象とするものもあるため、社内教育の費用として活用を検討する価値があります。
必ずしもそうとは限りません。大手ゼネコンで使用率が高い製品は、多くの実績とサポート体制がある点で有力な選択肢ですが、自社が手がけるプロジェクトの規模・用途(住宅系か非住宅系か、設備比率が高いかなど)によって、適した製品は異なります。まずは自社の主要業務に必要な機能と、協力会社とのデータ連携要件を整理したうえで比較することをおすすめします。
ゼネコンがBIMソフトを選ぶ際は、協力会社とのデータ連携、施工BIMへの展開、鉄骨ファブとの連携、そして複数ライセンス導入時のコスト構造まで含めて検討することが欠かせません。日建連の2023年度調査でも、ゼネコンにおけるBIM活用はすでに一定の定着段階に入っている一方、標準ワークフローの整備という点ではまだ発展途上であることが示されています。ここまで紹介した5つの基準に沿って自社に合った1本を見極めることが大切です。
本記事内でリンクした各製品ページでは、価格や機能、対応環境をより詳しく解説しています。自社のプロジェクト規模や業務内容に合ったBIMソフトを検討する際の参考にしてください。
BIMソフトの選定は、価格だけでなく自社のプロジェクト規模や建物用途、業務内容に合った仕様かどうかが重要です。当サイトでは、建物の種類別におすすめBIMソフトを厳選して紹介する「BIMソフト3選をニーズ別で紹介」のページもご用意していますので、あわせてご確認ください。