BIMを導入したものの、実務への定着に悩む企業向け
BIMソフトを導入し、モデルも作成している。それなのに、設計変更はCAD図面だけに反映され、打ち合わせではPDFしか見られていない。このように、BIMを使うはずだった業務で、更新・確認・判断・受け渡しにつながっていない状態を、この記事では「BIMの形骸化」と呼びます。
立て直しの第一歩は、「もっとBIMを使おう」と呼びかけることではありません。どの業務で、誰が、何を判断するために使うのか。曖昧になっている部分を一つずつ決め直すことから始めます。
BIMの形骸化は、「社内にモデルがあるか」「BIMソフトを起動しているか」だけでは判断できません。見るべきなのは、BIMやそこから取り出した情報が、予定していた更新、確認、判断、成果物作成に役立っているかです。
たとえば、BIMモデルから図面を出力し、必要な注記だけを2Dで加える運用があります。会議でモデルそのものを開いていなくても、BIMから作成した図面を判断材料にできていれば、それだけで形骸化とはいえません。
国土交通省のガイドラインでも、誰が、どの段階で、どのような目的にBIMを使うのかを整理し、必要な情報や運用ルールへ落とし込む考え方が示されています。目的と利用者が曖昧なままでは、モデルを作った後の使い道も定まりません。
※参照元URL:国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/ Finderしてん)
モデルが使われなくなったとき、担当者の知識や意欲だけに原因を求めても解決にはつながりません。利用目的、入力範囲、更新方法、承認体制など、運用全体を見渡す必要があります。
国土交通省のガイドラインには、利用目的に合わせて情報の種類、範囲、詳細度を決めることに加え、マネージャー、コーディネーター、モデラーなどの役割を整理する考え方が記載されています。
これは、役割ごとに専任者を配置しなければならないという意味ではありません。小規模な組織であれば、兼任を前提に「誰が何を担うのか」を明確にするだけでも、責任の空白を減らせます。
※参照元URL:国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002012930.pdf)
同じように「BIMが使われていない」と見えても、必要な対策は会社や案件によって異なります。まずは観察できる症状を手掛かりに、直近の業務記録から停止箇所を絞り込みましょう。
| 見えている症状 | 止まっている可能性がある場所 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| モデルが実際の設計変更より古い | 変更をモデルへ戻す工程 | 直近の変更指示を誰が受け、いつまでに反映し、誰が確認する予定だったか |
| 確認会議でBIMや出力結果が使われない | 利用場面の設計 | 会議で決める内容と、モデルに入っている情報が合っているか |
| 属性を多く入力しているが利用者がいない | 情報要件の設定 | その情報を使う工程、担当者、判断内容が決まっているか |
| 特定の担当者がいないと更新できない | 運用体制と支援 | 代替担当者、作業手順、テンプレート、問い合わせ先が用意されているか |
| BIMと図面の内容が一致しない | 最新版と非連動箇所の管理 | どちらを更新の基準にするか、2Dだけで修正した箇所を記録しているか |
| 受け渡したモデルが次工程で使われない | 情報の受け渡し | 使用ソフト、バージョン、形式、詳細度、納品範囲、検証方法を合意していたか |
2D図面を併用しているなら、そのこと自体を問題視する必要はありません。確認すべきなのは、モデルと連動しない表記やCADで修正した箇所を把握できているか、変更内容をどこへ戻すか決めているかです。
官庁営繕事業のBIM活用ガイドラインでは、BIMモデルに必要な2D加筆を行って設計図書を作成する方法とともに、モデルと連動しない図面表記やCADで修正した箇所を図面別に整理する方法が示されています。
官庁営繕向けの手法ではありますが、民間案件で更新漏れや二重管理を探す際にも参考になる考え方です。
※参照元URL:国土交通省「官庁営繕事業におけるBIM活用ガイドライン」(https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001733648.pdf)
すべての案件や図面を一度に見直そうとすると、原因がかえって見えにくくなります。変更が多い図面、確認待ちが起きている工程、BIMとCADの不一致が発生した箇所など、問題を追いやすい範囲から着手してください。
設計変更の確認、干渉確認、図面出力、数量確認などから、BIMを使う場面を一つ選びます。「BIMを活用する」では範囲が広すぎます。「定例会議で設備変更の影響を確認する」といった形で、利用者と判断内容まで具体化しましょう。
最近発生した変更や確認作業を取り上げ、指示、作成、確認、修正、承認の流れをたどります。担当者が実際に見たモデル、図面、PDF、メールを確認すると、予定していた運用から外れた地点が浮かび上がります。
選んだ利用場面で必要となる形状、属性、図面表記を整理します。細かく作ること自体を目標にせず、判断や成果物作成に必要な情報を満たす範囲にとどめるのが基本です。使わない入力を減らせば、更新の遅れも抑えやすくなります。
変更を受け付ける人、モデルを更新する人、内容を確かめる人、最終的に承認する人を決めます。あわせて、モデル、図面、PDFのうち、各段階で何を最新版として扱うのかも共有しておきましょう。
選んだ業務を指示から承認まで動かし、変更がモデルへ反映されたか、どこで確認待ちが生じたか、同じ情報を再入力したかを記録します。成果物が予定した判断に使われたかも確認してください。問題が残った部分を直してから、次の業務へ広げます。
国土交通省のガイドラインには、作業中の情報をレビュー、承認、共有へ進め、修正指示が出た場合には再び作業中の状態へ戻す流れが示されています。
モデルを保存・共有した時点で終わりにせず、修正と承認まで一巡させること。これが、BIMを実務へ戻せたかどうかの一つの目安になります。
※参照元URL:国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002012930.pdf)
作成したモデルの数、BIMを使った案件数、ソフトへのログイン数は、利用状況を把握する手掛かりになります。ただし、それだけではBIMが実際の判断や成果物作成に役立ったかまでは分かりません。
そこで、選んだ利用場面ごとに、業務が最後まで進んだかを確かめます。以下は業界共通の評価基準ではなく、自社内で同じ対象範囲を比較するための指標例です。
| 確認する業務 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| 変更管理 | 対象とした変更がモデルへ反映され、確認・承認まで完了したか |
| 打ち合わせ・確認 | 予定した判断に、モデルまたはBIMから出した情報が使われたか |
| 図面作成 | 同じ対象範囲と成果物で比べたとき、再入力や照合作業がどう変わったか |
| 次工程への受け渡し | 合意した情報が渡り、予定した用途に利用されたか |
| 運用の継続性 | 特定の担当者が不在でも、更新、確認、承認を進められたか |
国土交通省が実施したBIMモデル事業でも、発生した課題、対応策、活用効果、今後の改善方策を検証する枠組みが採られています。
「導入したか」で評価を終えず、使った結果と残った課題をセットで振り返る。この考え方を取り入れると、次に直すべき点が見えやすくなります。
※参照元URL:国土交通省「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」(https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000887.html)
形骸化の原因が違えば、取るべき対策も変わります。目的や承認者が決まっていない状態でソフトだけを入れ替えても、同じ問題が新しい環境で繰り返されかねません。
| 確認できた問題 | 検討する対策 |
|---|---|
| 目的、利用者、承認方法が決まっていない | 利用場面と運用ルールを先に整理する |
| 決めた作業に対して操作や習得の負担が大きい | 対象業務を固定し、別のBIMソフトでも試してみる |
| 担当業務に必要な操作を習得できていない | モデリング、確認、図面出力など、役割別の教育を行う |
| 運用は決まっているが、モデル作成量が追いつかない | 対象工程や成果物を限定して外注する |
| データ交換や他ソフトとの連携で止まる | 使用ソフト、バージョン、形式、検証方法を見直す |
現在のソフトが対象業務に対して複雑すぎる、必要な出力や連携に対応しにくいといった問題が確認できた場合は、学習負担も含めて別のBIMソフトを比較します。
その際、機能の多さだけで選ぶのは避けたいところです。選んだ利用場面を、指示から承認まで無理なく一巡できるかという視点で評価します。
運用と承認体制は決まっているものの、繁忙期や案件の集中によって作業量が追いつかない。こうした場合は、BIM業務代行も選択肢に入ります。
依頼前には、対象工程、入力資料、詳細度、納品形式、変更指示の窓口、成果物の承認者を整理しておきましょう。範囲が曖昧なまま発注すると、確認や手戻りが増える原因になります。
国土交通省のガイドラインでも、外部委託を行う場合は、作業内容、期限、詳細度、責任範囲などを事前に合意する考え方が示されています。
外注は社内の判断まで手放す方法ではありません。社内で決めた運用に沿って、モデル作成や図面出力などの実作業を補うために活用します。
※参照元URL:国土交通省「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002012930.pdf)
対象が一部に限られていても、決めた目的に使われていれば形骸化とはいえません。見るべきなのは対象範囲の広さではなく、予定した更新、確認、判断、受け渡しが実行されているかどうかです。
直近の変更や確認作業を一件だけ選び、指示から承認までの流れを追ってください。誰が何を見て作業し、どの時点でBIMから別の資料へ移ったかを書き出すと、運用が止まった場所を見つけやすくなります。
2D図面を使うこと自体は形骸化ではありません。BIMから出す情報、2Dで補う表記、CADで修正する箇所を分け、変更が生じたときの更新方法を決めておけば併用できます。
操作の複雑さ、学習負担、必要な出力、データ連携が原因で業務が止まっているなら、ソフト変更を検討する余地があります。一方、利用目的や承認体制が決まっていない場合は、ソフトを選び直す前に運用を整理したほうがよいでしょう。
モデル作成や図面出力の人手が不足している場合は、外注によって運用を支えられます。ただし、利用目的、変更指示、成果物の確認・承認まで外部任せにすると、社内でBIMを使う場面が育ちません。判断と承認を担う担当者は、社内に置いておく必要があります。
形骸化を立て直すために、すべての案件を一度に変える必要はありません。まずは設計変更、確認会議、図面出力などから一つを選び、利用者、必要な情報、更新者、承認者を決めて一巡させます。
運用を決めても、現在のソフトや作業体制では実行が難しい。その段階で初めて、ソフト変更、役割別教育、BIM業務代行を比較します。